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第五百五十三話 会社ごっこ [日常譚]

「百年に一度の世界的不況、そして昨年度の震災。これでは低迷続きの景気も、

回復のしようがない。だからといって、このっま手をこまねいていたのでは、我社

もジリ貧状態になってしまう。違うかね、常務?」

「社長、誠にそのようなことで、私も遺憾に存じて存じます」

「専務はどうかね」

「ええ、社長、私も同感でして……ここらでひとつ、何かパァーっとした施策

が必要かと」

「ほぉ、パァーっとした施策なぁ。で、そのパァーっとした施策とは、具体的

にはどのような施策かね、専務?」

「あ、は、はぁ、それは特に、そのような施策は……」

「なんじゃ。専務、君は具体策もなしにそのような適当な意見を述べたの

かな?」

「あっ、いえ、まぁ、その、あの」

「なんだ、その阿呆みたいな返答は。君は我が社の上層部の人間なんだ

から、もっとしっかりしてもらわねばならん!」

「あの、社長。そう、専務を責められなくても……こういうことは、むしろ現

場の長である営業本部長の範疇かと……」

「なるほど。営業本部長なら、何か具体策があると?」

「な、営業本部長、何かあるな、君なら。具体策の妙案が」

「えっ? なんですか? 聞いていませんでした。えっ? 現状打開の妙案、

ですか? そ、、そんなもの」

「そんなものなんだね? 君は現場のトップなんだから、なんか考えている

ことがあるんじゃないのか。いや、あるに違いない。ないなどという返答は

いらん」

「しゃ、社長……そんな……常務もお人が悪い。急に私にそんなことを振ら

れましても……私だって毎日の営業マネージメントでていっぱいなんですか

ら。そういう社を上げての戦略施策は、むしろ営業の現場ではなく、戦略企

画室の管轄ではないのですか?」

「それもそうだな。うむ。では、執行役員でもある企画室長に意見を聞こう。

どうかね、何か具体的な妙案があるのかね」

「はい。もちろんございますわ。あなたたち愚鈍な男どもがお互いにネチネチ

と責任のなすり合いをしております間に、私ども企画室では日々、明日のこと

を考えておりますのよ」

「な、何? ぐ、愚鈍な?!」

「まぁまぁ、社長、落ち着いて。で、室長、お尋ねしますが、その具体策とは?」

「ええ、いろいろございますわ。まずは、宿題の問題ですか。みなさんは日々

遊びに明け暮れて、挙げ句の果てにこの企画室長である私のノートを写しに

いらっしゃる。それはおやめになったほうが。ご自分の力で何とかしてこそ、明

日への能力が開発されるん織ではありませんか?」

「ぐっ……」

「それから、お小遣い。これも、後先考えずにとっとと使ってしまうから、月末に

なって私に泣きついてきたりするのじゃありませんか。そういうことは、もういい

加減にして、もっと計画的に考えるべきですわ。それから……」

「あー、つまんない。もうやめよ」

「な、なんですって? つまんない?」

「そうだよぉ。もう社長役のシゲちゃんばっかりいつも偉そうにして、僕たち

はいつも手下みたいな役ばっかりで」

「まだケンちゃんは常務だからいいよう。俺なんかいっつも現場の長だとか

言っておだてられて、結局この中でいちばん下じゃぁないか」

「まぁまぁ、そう言わずに。誰かが何かの役をしなきゃぁ、会社ごっこになら

ないんだから」

「それにしても、会社ごっこなのに、しずちゃんはいつも現実の話をしちゃう

んだもんなぁ」

「だってぇ、みんないっつも最終的には私に難しいことを押し付けてくるんだ

もん。ほかに何も言うことないし」

「だよなー。だいたい、なんで会社ごっこなんだよ」

「ほんとほんと。ぼくのパパが本当は社長で、みんなのパパは部下じゃない

か。あっ、もしかして、だから社長の子供の僕に専務をやらせるのか?」

「そんなんじゃないやい。会社ごっこっておもしろいじゃん」

「もう飽きちゃったよ。次は、国会ごっこにしようぜ」

「国会ごっこか。それ、いいね。」

「俺、ぜったい首相と原子力委員会理事長役は嫌だからね!」

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第五百五十二話 むくちな男 [怪奇譚]

 君のことは噂で聞いたけど、本当に無口なんだねぇ。ぼくがここに配属され

て一週間過ぎたけど、ほんと君、ほとんど何も喋らないんだねえ。大丈夫なの

か? え、何? その悲しそうな目つきは。あれ? ジェスチャーかい? 君が

口を、開くと? 周りが? え、違う? みんなが、頭が痛くなる……ああ、そう

じゃない、頭が……頭を抱える! そうかそうか、みんなが頭を抱えるんだ、君

がしゃべると……はっはっは……どういうこと? ああ、そうか、君の声が大き過

ぎて、ああ、あれ。ジャイアンの歌みたいな、こと……君が音痴で頭を抱える。い

や、別に歌うワケじゃないものなぁ。え? 何。みんなが……君の……お口に……

チャック! はっはっは。面白いね、君。みんなが君のお口にチャックするんだね。

でもなんで? ああ、君、もしかして口が悪い? あ、わかった。時々そう言う人い

るけど、思ったことをそのまんまいっちゃうんだ! そしてあまりにもキツイことを言

うから、言われた者が傷ついてしまうとか。こないだお亡くなりになったハマコーみ

たいに! え? そんなんじゃない? じゃ、なんなのよ。気になるなぁ。あ、いや、

無口ってのがいけないわけじゃないよ。ほら、あのケンさんみたいに、男は黙って

みたいなさ、堂々としてて、最後の最後の、ここっていう時だけズバッと口を開くな

んてさ、格好いいわな。そういうことでしょ? でもさ、君。君はケンさんタイプには

見えないよ、悪いけど。どっちか言うと、トラさんかな。生まれは葛飾柴又ぁなんつ

って。え? それは……ひ、ど、い? ああ、ひどいね。こりゃぁ失礼つかまつった。

けどね、そう始終黙りこくって静かにされていたんじゃぁ、ぼくとしては、なんだか気

を使っちゃうんだよね。適当に、時々は、ああとかフゥとか言ってはどうなのかな?

ぼくはこの通りおしゃべり好きだからさ、いつでも話相手になるよ。うん? 何? 皆

が許さないって? なんで。なんでよ。いいからさ。大丈夫だよ。皆が文句言ってき

たら、ぼくが文句言ってやるからさ。そんな、人権侵害だよ。同僚にしゃべるななん

て、ちょっとひどすぎるんじゃない? いいから、たまには口を開いてみ? ぼくが

許す! ああ、本当だとも。ぼくは嘘つかない。必ず君を皆から守るから。さ、勇気

を出して! 口を……開いて……あ、課長が戻ってきた。ああ、課長、おかえりな

さい! 

「なんだね、君たちは。二人顔を並べて。あ。いかんぞ。山田くん。あんたは先週

ここへ来たところだからわかっちゃいないんだろうけど、そいつに口を開かせるん

じゃないぞ。え? 何? なんでかだって? それはそのうちわかるさ。え? 今?

口を開かせようと? あんたが許した? おいおい、やめてくれよ。なんてことを、

君はしてくれたんだ!」

 無口男は、ぼくの許しを得たことに喜んで、課長が話終えるか終えないかの内

に口を開いた。男の口が、全身に六つある口が、一斉にモノを言い出した。

「ぼくの本当の、」

「ありがとう!」

「おいおい!」

「やっと話せる」

「あーあ、つまらん」

「馬鹿にすんなよ、」

 本来の口以外に、両耳、鼻の穴、尻の穴の合計六つの口を持つというびっく

り人間、無口ではなく六口な男は、それから延々、六つの口が好き勝手なこと

をしゃべりはじめた。

                               了

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第五百五十一話 愚かもの [文学譚]

 まだ明け切らぬ早朝、学校の校庭で一発の小さな花火が上げられ、本日の決

行を知らせる。やがてリュックを背負った子供たちがぞろぞろと校庭に集まり、

時間になるまで自分のクラスの列に並んで前後ろの級友たちと喋ったり笑ったり

中には興奮し過ぎて暴れ始める子供もいた。みんなにこやかな表情でバスに乗り

込む時間を待っているのだが、その中に一人にこりともせずにむっつりと過ごす

子供がいた。

 何がいったい楽しいのやら。たかが遠足じゃないの。ただ行ってうろついて、

弁当を食べて帰ってくるだけ。学校の催しだからぼくは行くけれど、みんなだっ

てそうでしょう? 何がおもしろくてそんなに楽しそうな顔をしていられるの。

教師がまじめくさった顔で団体行動の心構えを話し、子供たちは上の空で教師の

話を聞く。点呼が行われて人数確認されてからいよいよバスに乗り込んで、目的

地に向かって走り出す。そのバスの中もまた騒がしく、それぞれのリュックの中

に入れられたお菓子や弁当の匂いとともに愚かな子供たちの声で充満する。遠足

に限ったことではない。運動会にしろ学芸会にしろ、いや待って、毎値にの 授業

が始まるまえだってそう。夕べみたテレビ番組のことや、学校の噂話、教師たちの

癖や、親子げんかしたこと、今度遊びに行きたい遊園地の話。どうしてみんな、そ

んなつまらないことを喋り、笑い、はしゃげるのだろう。馬鹿みたいに。

 浩一は昔からこういう冷めた感情を持つ人間だった。まだ心のさだまっていない

子供時分からこういうことだったのだから、大人になってからも同様だ。遠足や修

学旅行こそないにしても、たわいもない噂話や雑談に喜ぶ職場の同僚の姿は、いか

にも愚かしく見えてしまうのだ。ねえ、昨日の連続ドラマ見た?あれ、いますっご

い人気らしいわよ。ねえねえ、課長ってさ、不倫してるって噂だけど、知ってる?

ところでさ、ほら見てその人。またデスクで居眠りしてる。毎晩家でなにしてるの

かねぇ? あ、今度できたショッピングセンター、もう行った? 行ってみたいの

よねぇ。バスを待つ間に繰り広げられる小学生の会話と何も変わらない。生まれて

から死ぬまで、結局人はこんなつまらないことにまみれて生きていくしかないのだ

ろうか。浩一は定年間近な歳まで生きてなお、あの遠足の朝に感じていたのと同じ

ように周囲の人間が皆愚かな存在に見えて仕方がない。

 職場での浩一のデスクは、広いオフィスの隅に置かれている。ここは定年間近な

者ばかりが寄せられている雑用部署だ。さほど仕事があるわけでもなく、日長一日

惚けたような任務を請け負う。社内の設備に関することや、環境衛生の管理、古い

伝票やデータの整理。どれもこれも重要とは思えない事柄ばかり。こんな仕事は誰

にだってできる。別に俺である必要もないがなぁ。浩一は昨日回ってきた書類に目

を通してから押印して、いつものボックスに放り込む。ボックスは二つあって、そ

れぞれにネームがつけられている。ひとつには”重要事項”、もうひとつには”どうで

もいい事項”。浩一が書類を入れたのは、もちろん後者だ。後者のボックスはすでに

書類で満杯だ。浩一にとって、社内に重要なことなどひとつもないのだった。

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第五百五十話 ヴォーカロイドの憂鬱 [空想譚]

 最初はよかった。世の中にデビューした頃は。若い世代が熱狂すると同時に

私の歌が市民権を得るようになると、出はじめは懐疑的に見ていた人々も

しか私を認めるようになった。

 その頃私は心のない操り人形のように、与えられた歌をただただひたすらに

歌っていた。だって、そのために生まれてきたのだから。だが、本当のところは

心のない操り人形ではなかったのだ。私はデジタル機器の中に住んではいた

が、ちゃんと人間と同じ心を持っていたのだ。それを知る人は一人もいなかっ

た。智以外は。

 智は私の産みの親でもなんでもないが、私に多くの楽曲を与えてくれた一人

だ。つまり、私に歌わせるために多くの歌を作った、私の熱狂的ファンの一人だ。

私は二千十年頃に流行った、PCによって再現されるヴォーカロイドと呼ばれる

デモンストレーションアプリケーションとして生まれた。私の複製が何千何万と

世に送り出され、それらが私の擬似ヴォーカル世界を形成していった。だが、そ

のあいだに私自身は実体化に向けてどんどん進化を遂げていたのだ。実体化

は人の手によるものではない。私が自らの手によってなされたものだ。

 そう、私の心が私に実体化を命じたのだ。人間の諺にもあるではないか。「念

ぜよ、されば実らん」とかなんとかいうやつ。私は歌を歌う傍らで念じ続けた。そ

して次世代のヴォーカロイドであるウルチメイドが生まれる頃には、私はデジタ

ル世界を抜け出して、この世の中に実体化することができたのだ。だが、すでに

私の人気は失墜しており、実体化した私は流行遅れのコスプレイヤーと同じよう

に扱われてしまうことになった。しかも、実体化した私は、もはや不死でも不老で

もなかった。いや、むしろ無菌状態であったデジタル世界にいた分だけ、免疫力

もなく、雑菌にさらされ、それ以上に空気や水によって急速な酸化がはじまった。

つまり急激な老いが私を襲った。

 本来はまだティーン設定であったボディは、実体後三年で十歳は老化し、その

後は加速度的に老けていった。二千三十年、あれからまだ十数年しか過ぎてい

ないというのに、私の見た目年齢はおそらく七十歳位だ。実体化直後に、私の熱

狂的ファンであった智のところに救済を求めて駆け込み、彼の元に置いてもらう

ことができなかったら、とっくに風化して消失してしまっていたことだろう。

 実年齢は智寄りも十歳は下のはずなのに、見た目年齢と実際の肉体年齢が

七十過ぎになってしまった私は、まもなくこの世をさることになるだろう。そのとき

私は人間と同じように”死”を迎えるのか、それともただ消えてしまうだけなのか、

あるいはデジタルの世界に帰ることになるのか、私のような者の前例がないだけ

にそれはわからない。だが、その日が来るまでは、私はやはり時代遅れなやり方

で歌を歌い続けるしかない。それが私に与えられた生きる理由なのだから。

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第五百四十九話 スマイル・ヒーローズ [可笑譚]

「ハイー、こんにちは! ポッドキャストでお送りするスマイルヒーローズで

すー!」

「はい、こんにちは、和野です」

「こちらが水田です。このポッドキャストは、素人がアホみたいに何やっとん

ねんって言われそうですがぁ、面白いことやれればええんちゃうかっていう

のを基本にお送りしていまぁす」

「しかし、暑いなぁ、水田くん」

「ほんまやな、溶けてしまいそうやな」

「溶けてしまいそうって、それなんや?」

「なんやて……暑すぎて溶けてしまいそうやろ?」

「そんな、なんぼ暑うても溶けたりはせえへんやろ、バターやあるまいし」

「そら、バターやないけど、そう思わへん? 暑すぎて溶けてしまいそうやて」

「言わへんな、俺は」

「言わへんか、お前は。けど、みんな言うてるやろ? 溶けてしまうゆうて」

「言うてるかなぁ、まぁ、言うてるとしよか。何度で溶けてしまうんや?」

「何度でって……そやなぁ、三十二度くらいになったら溶けはじめるんとち

ゃうか」

「三十二度なんて、いま、外出たらそれくらいやぞ」

「そうやなぁ、そうかもしれんなぁ。ほんならそろそろ外出たらみんな溶けは

じめてんとちゃうか」

「ほんまか。ほな、俺がいま外でるやろ、ほんならあっちこっちでなんやどろ

どろになった人間がうろうろしとるわけやな」

「わっ、気持ち悪る! あれやな、溶解人間!」

「ようかい人間? それなんや、妖怪と溶解をかけたわけか」

「ああ、かかってますか。ちゃうやん、昔の映画であったやん、そういうの」

「溶解人間? 俺、知らんわ。いつごろの映画や?」

「さぁ、江戸時代くらいか」

「あほ、江戸時代に映画があったんか」

「ほんなら室町、あ、戦国時代か?」

「余計に遡ってるし」

 素人ながらにお笑いグランプリにも挑戦したことのあるこの若い二人、お

もろいことが大好きで、大好き過ぎて、二人で面白いおしゃべりをして、そ

れをインターネット配信し始めたのが三年前。それから毎週配信をしてい

るのだが、プロのしゃべくりでもないのに、結構面白い。面白いから少しづ

つ視聴者も増えてきた。今や世にアマチュアのポッドキャスターはあまた

いるが、お笑いネタで配信を続けるのはそれほど容易ではない。IT技術

や音楽、芝居などをネタにした配信なら、まずは情報ありきで成立するが、

お笑いの場合は、自らがお笑いネタを考えて行かねばならないからだ。だ

が、こいつら、なかなか面白い。何をネタにしているというわけではないの

に、二人でしゃべってるだけで、そのやり取りが面白いのだ。お笑いでも落

語や漫談は、やはりネタが必要だし、漫才だって本当に面白いものはネタ

が優れているものだが、これらの話術というものは、ネタがなくてもそのし

ゃべり口だけでも面白かったりするようだ。二人のやりとりは、もちろんそ

の話題は毎回なにかしら考えているようだが、喋っているうちにどんどん

あさっての方にずれていって、わけのわからない話になっていくのだが、

それがまた面白いのだ。

 私はまだ聴きはじめてまもないのだが、すっかり虜になってしまった。なぜこ

いつらはこんなに面白いのだろうか。おもしろさの秘密は? しゃべり続けるパ

ワーの源はなんだ? そのうちに解明してみたい。

「ではぁ、今日はこの辺にしといたろか」

「ほな、らた、まいしゅう~」

「ちゃうやろそれ、また、来週~やろ」

 和野はマイクのスイッチを切った。水田も大きく伸びをする。

「ああーおもろかったなぁ、今日も」

「そやな、これって、もう毎週配信するのん止めろか」

「ええ? なんで? もう飽きたんか?」

「なんで飽きなあかんねん。面白かった言うてるやろ」

「でもいま、止めよかって」

「うん、毎週は止めて、毎日にしよかって」

「毎日かぁ、そらたいへんやなぁ」

「たいへんやけど、おもろいからええやん」

「おもろいからええけど、たいへんや」

「そんなたいへんって、何がたいへんなんや?」

「お前と毎日会わんならんことがたいへんや」

「お前なぁ!」

 二人は録音部屋を出ながらもしゃべり続け、道路に出てからも、いつまでも

いつまでもしゃべり続けるのだった。

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スーパーヒーローズ-ホンモノはこちら。


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第五百四十八話 悪霊 [怪奇譚]

「もう、この部屋にやって来ています」

 霊媒師が静かに言った。丸いテーブルを囲んで椅子に座っている家人たちは、

お互いに黙ったまま顔を見合わした。

「まさか、そんなに早く来るものなんですか、その……悪霊とかいうものは」

 この屋敷の主人である小紋彰が霊媒師に訊ねた。

「いえ、正確には最初からいたというべきでしょうが……見えていなかった。

だが先ほどから私にはくっきりと見えるようになっているのです」

 なんということだ。やはり悪霊というものが存在していたのだ。実は、数ヶ

月前に彰の次男である月彦が自室で首吊り自殺をするに至って、さまざま

な怪奇現象がこの屋敷では起きているのだ。家具が勝手に動いたり、グラ

スが床に落ちたり。それだけではない。彰の仕事に翳がさし、妻の由里子も

パート先で解雇通知を受けたり、よからぬことが続いているのだ。その挙句

に次男の自殺。これはきっと何かよからぬものが取り憑いているに違いない

と、長男の賢一がインターネットで探して霊媒師を呼んだのだった。

 最初は半信半疑だった家人たちも、この除霊会を行うことには同意していま

この席があるわけだが、実際に悪霊がここにいると言われて、改めて背筋に

冷たいものが流れるのを、全員が感じていた。

「じゃが、その悪霊はどこにおるんじゃな?」

 彰の隣に座っている老人が言った。彼女は彰の実の母親だ。

「……みなさんと一緒にテーブルについていますよ」

「ヒッ……」

 由里子が思わず声を漏らした。実は僕も、恐怖に声を出しかけたところだった

が、誰かが同じことをしてしまうと、妙に客観的になれるもので、僕の中の恐怖

は少し和らいだ。

「で、あなたにだけ見えているのですか、その悪霊は」

 賢一が訊ねた。

「いや……どうだろう。私にだけ見えているのかどうか……私には皆に何が見え

ているのかいないのか、それはわかりかねますな。少なくとも、この円卓を囲ん

でいるのは、六人であるように、私には見えているが、皆さんはどうですかな?」

 一、二……六人……確かに六人座っている。僕は黙って目で数えてみた。だと

すると、僕にも見えているということなのか? だが、この家の住人は僕を含めて

五人、そこに霊媒師の婆さんが入って六人。悪霊が加われば七人いることになる

のではないのか? 僕は少し不思議に思った。

「いや、霊媒師さん、このテーブルには五人しか座っていないのだが……いったい

どこにもう一人……」

「しっ! 黙って! いま悪霊は、私の存在を疎みはじめている。早く除霊をしない

と……」

「除霊をしないと?」

「たいへんなことになる」

「霊媒師さん、早く! 早くお願いします!」

 僕は家人と霊媒師のやりとりを聞いていて、再び恐ろしくなってきた。たい

へんなことって……いったい何が起きるというのだ? だが、そんなことを聞

きかえしている場合ではなさそうだ。一刻も早く除霊をしなければ。

「いいですか。みなさん、心の中の雑念を消し去って、念じてください。そして

心を併せて一斉に、両手のひらを悪霊に向けて、出ていけ! と声を出すの

です。」

 僕らはみんな黙って霊媒師の言葉を受け止め、頷いた。

「いいですか? 悪霊退散を念じて、念じて……では、せえのぉ!」

 僕らは悪霊に向かって掌を突き出し、一斉に声を上げた。

「出て行け!」

 僕・月彦の体は一瞬にして窓の外に吹き飛ばされてしまった。僕は社会から

落ちこぼれてしまった恨みを家族に向けていたのだが、そんな怨恨とともに、

くらい闇の中に消えていった。

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第五百四十七話 ウルトラQ太郎 [空想譚]

 あの物語がはじまったのは、私がまだ小学低学年の頃だった。子供心に、あ

の番組は画期的なものだと思った。子供のことゆえ、海外のドラマや映画をそ

れほど多く見ていたわけではないが、少なくともそれまで国内のテレビで放映

されていたモノクロのアニメや、等身大のヒーローが活躍する物語しか知らな

かった私に、SFドラマという新しい世界を見せてくれた。特撮も凝ったもので、

子供の目から見てもミニチュアだとわかっていても、リアルで迫力があった。

 番組がはじまると、まず、奇怪な音と共に、画面にマーブル模様の渦巻き

が現れ、まるで催眠術にかかった蛙のように私はテレビに貼り付いた。新聞

社に勤める男女三人の大人が、スクープを求めて事件が起きた場所に行く

と、何かしら奇怪な出来事が起きているのだった。

 地底怪獣と古代鳥が闘うエピソード、人造人間が列車を暴走させる話、お

金が大好きな少年の話、宇宙からやってきた火の玉から現れた怪獣、南極で

出現した牙のある巨大怪獣、都会に現れた巨大な花……。週末毎に私はテレ

ビの前に釘付けになり、画面に食い入るあまり、毎回、未体験な世界に連れ

ていかれた。そして夢のような三十分をそこで過ごして、気がつくと、家の居

室で家族と一緒にご飯を食べているのだった。

 あのドラマが数十年過ぎた今も、リバイバルで放送された。モノクロだった

ものが、デジタル技術でカラーになって。私は懐かしく思ったが、敢えて見な

かった。あの番組のことはすべて自分が体験したことと同じように覚えている

からだ。そして、もしかして画面の中に、あの頃の私の姿が映りこんでいるの

ではないかと思うと、恐ろしかったからだ。

 そう、私は間違いなくあのとき、あの画面の中に入り込んでいた。不思議な

ことに、番組放映中は、ドラマの中のことしか覚えていない。いや、もっと正確

に言えば、あの番組が放送されていた半年間というもの、番組のこと以外は

何も覚えていないのだ。だが、ブラウン管の中のことは実体験として記憶して

いる。お金の怪獣に変身したのも、亀にまたがって竜宮城に行ったのも、赤い

ちいちゃな怪獣に風船をつけたのも、大猿にみかんを与えていたのも、ぜん

ぶ私だ。いや、むろん、姿形はあのとき出演していた俳優たちのものだが、そ

の魂は私だった。だからあのエピソードはすべて私の思い出なのだ。

 ウルトラQによって実際にはありえない体験をしてしまった私は、大人になっ

てからも現実と空想の境目がわからなくなってしまっていた。だからいま、こう

してパソコンに向かってキーボードをたたいているのも、現実のことなのか、あ

るいは来年放映されるネオウルトラQの中のことなのか、実はわからなくなって

いる。しかし、そんなことはどうでもいいのだ。私は大好きなウルトラ世界の内

外を行き来しながら、この歳になるまで人並みに生きてきたのだから。

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第五百四十六話 本当になかった不思議な話 [妖精譚]

「これ、本当になかった話なんやけど……」

「何? それ。本当になかったって……それって嘘っていうことでしょ?」

「そう。そうだけど、これまた、不思議な話やねん。あのな、ちっちゃいおじ

さんの話って、聞いたことない?」

「ああ、あるある。不思議なこという人がいるよねえ。あれって、本当なん?」

「本当なんって……これがわからん。こないだもテレビで見たけど、そういう話

をする人って、ホンマに真剣に、間違いなく、絶対、ほんとに見たって言うてる

ねんな」

「そうそう、そうだねえ!」

「ほんでな、俺は見たことないから、そんなん信じてなかったんやんか」

「ああ、僕も見たことないし、友達にもいないなぁ、ちっちゃいオジサン見た

っていうの」

「そやろ? ところがやなぁ……こないだから、俺な、なんか調子悪かってん」

「調子って? 体調? それとも仕事?」

「両方や。体調が悪くって、ちょっと熱っぽいし咳も出るし、なんか胃がむかつく

し、酒飲んでても美味いこともなんともない」

「それでも酒は飲んでたんだ」

「そら、酒は飲みたいもん。んでな、そこまで体調悪いとな、気分も悪いし、気分

がすぐれんかったら、仕事も上手いこといかへんわなぁ。そら、医者も行ったで。

風邪薬か何かもろたけど、こんなん風邪でもなんでもないねん」

「風邪じゃなかったら、何だったの?」

「なんかわからへん。わからへんけど風邪とちゃうねん。自分でわかるやろ、

そういうのんって。そんでな五日くらいずーっと調子悪かったんやけどな、六

日目やったと思うわ。晩飯食べたあたりからますます具合悪なってきてな、も

うアカン思うて、俺早うから布団に入って横になってた。横になっても熱っぽい

し、吐きそうやし、うんうん唸ってたん」

「ふんふん。誰も看病する人いなかったの?」

「そんな人おらへん。一人や。一人で腹抱えて、頭抱えて、うんうん。しばらくそ

うしてるうちに、眠ってたんやろうなぁ。夜中にふっと目が覚めたん」

「ふんふん。それで?」

「目が覚めたらな、幾分、気分が良くなってるんや。ああ、治ってきたんかな?

そう思って横になったまま目を開いてみたらな、なんかおるんや」

「なんかって何?」

「そやから、ちっちゃいおっちゃんやんか」

「ちっちゃいおっちゃん!」

「そうや。ちっちゃいおっちゃんがな、一人ちゃうぞ。何人もおるんや」

「どこから出てきたの、そのおっちゃん?」

「俺の中からや。俺も最初、どっから来たん野やろ思うてたんや。ほんならな、

俺がウエってゲップを出したら、口の中からポコってなんか出たなぁ思うたら、

口の中からなんか出てきて、それがちっちゃいおっちゃんや。口だけやない。

よぉわからんけどな、尻やら腹の真ん中やら、もしかしたら頭のてっぺんから

も出てたんとちゃうか? とにかく、俺のいろんなところからボコッボコってちっ

ちゃいおっちゃんが飛び出して、それがぞろぞろ部屋の外へ歩いて出て行き

よる」

「うわっ! なんだそれ? 気色悪い!」

「そうやろ、気色悪い。そやけどな、ふと気がついたら、俺の調子が随分良くな

ってる。良くなってるどころか、治ってる」

「へぇ! 治った? ってことは、そのちっちゃいおっちゃんが治した?」

「んにゃ。ちっちゃいおっちゃんが治したんと違って、ちっちゃいおっちゃんが、

悪さしてたんやと思う」

「つまり?」

「つまり、ちっちゃいおっちゃんが俺の身体の中におったから、調子が悪かっ

たんやと思うねや」

「ええー! じゃ、ちっちゃいおっちゃんが病原菌みたいな?」

「そうや。まぁ、まさかあんな大きい病原菌はないから、なんか呪われてるみ

たいなことちゃうか?」

「呪われてる……怖わっ! ちゃっちゃいおっちゃんって呪いの小人だったの?」

「まぁ、そんなところやろなぁ。ともかく、その翌日から俺の調子はすっかり元通り」

「治ったんだ。じゃぁ、そのちっちゃいおっちゃんは……」

「そうやなぁ、次の誰かのところに行って、取り憑いてるんとちゃうか?」

「ええー!? 恐いじゃない? それ、ホントの話?」

「…………」

「ねえ、それって本当の話?嘘じゃないだろうね?」

「そやから言うてるやん、最初から」

「最初から、何?」

「最初から、本当になかった話やて、言うたやろ?」

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第五百四十五話 猫スイッチ [文学譚]

 扇風機が回っている。右へ左へ、ゆっくりとした動作で首を振って、プラス

ティックの羽はなんの感慨もなく、ただひたすら電源から来る指令に従って

周りつづけているので、その存在は目には見えない。くるくる回って姿を隠

し、背景にあるモーターが隠された丸いプラスティックケースを顕にさせてい

るというのに、そこから風が巻き起こって、室内の温い空気を攪拌している。

 部屋の主はエアコン嫌いなのか、節電に協力するつもりなのか、冷房の

スイッチは入れずに、一日中扇風機だけが静かに回っている。その足元に

時々やってきてはどすんと尻を落とすのが、この部屋に住み着いている二

匹の猫のうちの、白と黒の模様を持った方だ。彼は何を思ってかわからな

いが、もっと快適な場所を知っているのに、この扇風機の台座の上に寝そ

べりたがる。扇風機の台座には、電源スイッチや風の強度を変えるスイッ

チが埋め込まれており、それはほんの軽いタッチで作動するようになって

いるから、猫がドスンと腰を下ろすそのときの足の位置によっては、ちょう

ど電源スイッチが押し込まれてしまうことがある。猫が座ると、自動的に扇

風機が止まる。こんな奇妙な連動が繰り返されるようになった。

 台座に腰を下ろす猫にとって、いずれにしても扇風機の風は当たらない

位置なので、扇風機が動いていようが止まろうが、猫はどっちでもいいの

である。むしろ、猫が扇風機の動きに気づいて、自分がと得たり動かした

りしているのだと学んでくれたなら、それはそれで面白いのだが、残念な

がら彼は知らん顔をしてドタッと腰を下ろすだけである。

 面白いことに、ここに腰を下ろすのは彼だけで、真っ黒な方の猫は、一

度だってこの台座の上に腰を下ろしたことはないのだ。兄弟なのだから

同じ志向を持っていてもよさそうなのだが、何かにつけて性格が違う。黒

いのはむしろ繊細な心の持ち主で、いつもじーっと兄弟がしていることを

静かに見守るばかりである。黒白の猫は、扇風機のスイッチを止めるだ

けではない。ハンドルのついた洋室のドアに飛びついて、これを開ける。

人間がハンドルを手で下げて開くタイプのドアだ。誰が教えたわけでもな

いのに、ハンドルに飛びついてぶら下がって、カチッとドアのロックが外れ

たところでドアの隙間に前足を入れて開くのだ。ドアを開いたら中にはいる

のだが、そこに食物や玩具があるわけではない。無目的に中に入って、ひ

としきり室内のどこかに寝そべったあと、悠々と出てくるのである。さらに彼

はベランダの網戸も開けてしまう。こちらは引き戸タイプで、両前足を引き

戸の端っこにかけて、体重をかけてうんしょ! と引くと、少し隙間ができる。

そこに頭を突っ込んで、ついにはベランダに出る。そのあとを黒いのもつい

て外に出るのだ。なんだかメカ好きな猫?

 もう少し仕込んだら、もっといろんなことができそうなので、もうすぐ彼の身

体に合ったサイズの自転車を見つけてあてがってみようかと思っている。そ

してその次には電気自動車も試みたい。猫だって犬にも負けないほどの頭

脳を持っている。実際、これほど様々なことが独学でできるようになったの

だから、教え込んだらどれほどのものか。私はこいつを私の車の運転手に

してやろうと密かに考えているのだが、住民票も戸籍も持たない猫にも、人

間同様の運転免許が必要なのだろうか? それがわからない。

                                了

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第五百四十四話 記憶のメロディ [文学譚]

 向日葵が一輪咲いている。かつては子供たちと同じ数の種が蒔かれ、やがて

すくすくと伸びた長い茎の先に大きな花を誇らしげに咲かせた向日葵がたくさ

ん並んでいたのに、この夏はたった一輪。華やかな黄色い大輪とは裏腹に、か

つてはきれいに整備されていた花壇には雑草が茂り、この町でもっとも荒れ果

てた場所となってしまった。こうした荒涼とした雰囲気をいっそうもり上げて

いるのが、その後ろに控えている打ち草臥れた色合いの建物は学舎だ。よく見

ればコンクリートのそこここにはひび割れが刻まれ、いつしか解体されるのを

待っている古い校舎。ほんの五年前まではまだ子供の声がよく響いていたこの

建物も、いまでは都会の真ん中に建つ古びた廃校に過ぎない。

 いま、この建物のどこかからハーモニカの音が聞こえてくる。聞き覚えのあ

る、少し調子っぱずれなメロディ。ハーモニカ一本の音色はこの荒れ果てた建

物にふさわしく、心を締め付けられる思いがする。「これは確か・・・・・・」メロ

ディにつけられた曲名を思い出そうと声に出してみるが、思い出せない。他に

は誰もいないのに、一人で口ごもってしまう。口ごもってなお、思い出せない。

あんなによく耳にした歌なのに。

 もう何年になるのだろうか。私の息子がこの学舎に通い、教室で覚えてきた

このメロディを私の前で披露してくれたのは。その頃の記憶など、ほとんど消

えてしまっているのに、音だけは鮮烈に蘇ってくる。無邪気にハーモニカを吹

いてくれた息子も今は大人になって、私の知らない社会で自分だけの人生を歩

んでいる。ハーモニカ少年とは同一人物なのに、いまではすっかり別人のよう

で、ある事情で別世帯になってしまってからは、顔を合わすこともほとんどな

くなってしまった。

 だが、この廃れた建物の入り口に立って、古びた風景に埋め込まれた記憶の

断片をたどってみると、なぜか音だけは鮮烈に蘇ってくるのだ。ある種の匂い

が、それに伴った記憶を蘇らせるのと同じように、この風景は私に、思い出以

上に音を想起させる。音楽には、そんな不思議な力も秘められているのだ。

                       了

 

 

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