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第五百二十二話 カメレオンナ [妖精譚]

 浮気野郎。それが俺につけられた女どもからのニックネームだ。そう、俺は

ひとりの女では満足出来ない体質なのだ。しかし、それは俺の責任ではない。

俺の遺伝子に刻みつけられた雄の本能という奴が、少しばかり強いだけなの

だ。雄の本能とは、一匹でも多くのスペルマをこの世にばら蒔き、ひとりでも多

くの俺の子孫を増やす、つまり俺の遺伝子をできる限りたくさん、この世に残し

ていくための、遺伝子が自らに仕掛けた戦略なのだ。

 俺は最愛の恋人がいるにもかかわらず、別の女ともねんごろになる。さらに

他の女とも。だって、それが俺という人間に課せられた人類の使命なんだから

仕方がない。

 最愛の恋人である真希とは、まもなく婚姻する。それは俺ではなく、真希が望

んだことだ。確かに、この国では、子作りをするためには婚姻が前提になる。結

局、俺だって婚姻をしなければ正式には遺伝子を残せないのだ。真希は、俺の

浮気癖を知っている。知っていてなを、結婚したいという。結婚後の浮気は許せ

ないが、見て見ぬ振りをするという。よく出来た女だ。

 婚姻を目前にしたある日、真希ではない別の女とベッドインした。もちろんそれ

は、はじめての行為ではないんのだが、しかしそのとき改めて気がついたことが

ある。女の匂いが、真希のそれと似通っているのだ。いや、似通っているのでは

ない。同じなのだ。それまでも薄々そう感じていたが、真希との婚姻が決まって、

真希と接する時間が増えたお蔭で気がついたのだ。さらに、その後また別の女

と同衾した際にも同じことを感じた。この匂いは、固有のものではない。女という

種族に共通した匂いなんだろうな。勝手にそう解釈して納得した。

 真希と式を挙げて、一緒に暮らすようになってからも、真希が見て見ぬ振りが

出来る程度に分からないように浮気を続けた。だが、真希と一緒に暮らすという

ことは、逆に真希の全てが見えてくるということでもある。ワードローブの中に収

められている衣服。真希がいつも使っている香水。真希がくつろいだときにする

仕草。そんなもの全てが俯瞰出来るようになって、また不思議な気がした。匂い

だけではなく、衣服や仕草までもが、複数の女たちお間で共有されているような

感じがあるのだ。まさか、すべての女が共通した衣服や仕草を持っているとは考

えにくい。

 ある日、浮気相手と会う直前まで、真希の様子を伺ってみた。その日、真希も

誰かと会う約束があるようで、いそいそと支度をはじめた様子を確認してから、

俺は玄関の外に隠れて真希が出かけるのを見張った。しばらくして真希はよそ

行きのお洒落をして出かけてしまった。後をつけるなどということは諦めて、俺

は浮気相手との待ち合わせ場所に向かった。

 俺がバーで待っていると、恵子がやって来た。だが、一瞬真希が来たのかと

目を疑った。何故なら、先ほど真希の姿と瓜二つだったからだ。妻と浮気相手

の衣装が丸かぶりするなんて、そんなことが普通ありうるものだろうか?だが、

ベッドインしてしまうと、そんなことも霧散してしまった。

 別の女とのときも、同じことをしてみたら、またしても服装が丸かぶりだった。

さすがの俺も気持ち悪くなった。ホテルを出て彼女と別れたあと、ついに俺は

探偵まがいのことをした。そう、彼女を尾行したのだ。俺は浮気相手の家を知

らない。彼女は、電車に乗って、俺が住んでいる町の駅で下車した。はて、こ

んなに近いところに住んでいたのか? そう思うまもなく、彼女は俺のマンショ

ンと同じ方向に歩き出した。そして、ついに俺のマンションに入っていった。

 まさか。そんな馬鹿な。浮気相手が俺と同じマンションに住んでいる?彼女

がエレベーターに乗ったのを確認してから、俺はもう一基あるエレベーターに

乗り込んで自室を目指した。玄関をあけると、妻も帰宅したところだったようだ。

驚いたことに、浮気相手と同じ衣装を着ている。青ざめた俺の表情を見てとっ

て真希が言った。

「あら? おかえりなさい。まさか、私をつけていた? だったら、もう、わかって

しまったのかしら?」

 な、なんのことだ?

「全部、私なのよ。気がつかなかった? 私は生まれつき特異体質でね……」

 そう言いながら、真希は俺の目の前で恵子の顔になり、別の浮気相手たちの

顔に、次々と表情を変化させていった。

「あなたのような雄に対抗するために、雌だって、こういう能力を持つという進化

をはじめているのよ。ふふん。私だけじゃないと思うわ。でも、これであなたは、

悪気なくいつだっていろいろな女を抱けるからいいんじゃない?」

 俺は、自分の遺伝子に支配されているのかと思ったが、ほんとうは、女の遺伝

子に操られていたというわけだ。

                                    了

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第五百二十一話 悪を倒せ [怪奇譚]

「ワッハッハッハ! どうだ、やはり、現実でも正義は必ず悪に勝つのだ!」

 悪の限りを尽くしてきた統手賀雲谷斎(すべてがうんこくさい)はいま、地

面に打ち付けられて息も絶えだえになりながら、たったいま、自分を打ち負か

して目の前に立ち聳えている結構仮面を見上げた。

「く、くそう。正義は勝つ……確かにそうかもしれないが、貴様、世界の善悪

バランスというものを知っているか?」

「何をほざいている。そんなものは知らない」

「世の中は、善が明るい側を支配するためには、必ず、その反対側にある

存在が必要なのだ」

「つまり、ダークサイドには悪と言いたいのだな」

「そ、そうだ。俺たち悪は、善を善たる存在でいさせるために存在するという

ことなのだ」

「何を馬鹿な。そんなふざけた話があるものか。世の中すべからく善であって

何が悪い」

「と、ところが、そうはならぬのだ。善が君臨するためには悪が必要なのだ。

そして、もし、悪が存在を止めてしまった時には、必ず次の悪が生まれるのだ」

「馬鹿な。仮にそうだとしても、そいつもまた、私がやっつけてやる!」

「ふっふっふ。残念だな。次の悪は、いまの悪を打ち負かした者が成り代わる。

世の中の暗黙のルールは、そうなっておるのだ」

「この期に及んで、なんという嘘をつきやがる。お前など、さっさと逝け!」

 結構仮面に止めを刺された雲谷斎は、ぐぇ! と言って息絶えた。その姿を

見ていた結構仮面は、再び空に向かって高笑いした。

「ワッハッハッハ! ギャーッハッハッハ! おれで、ついにこの世は、俺様の

ものだ!うわーっはっは! これからは、この結構仮面様が、ダークサイドも、

ライトサイドも、すべての世の中を試合してやるのだ! ワーッハッハ!」

 かくして、新たな悪のキャラクター、結構仮面雲谷斎が立ち上がったのだった。

                         了

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第五百二十話 家なき親子 [文学譚]

 その親子は繁華街のはずれをゆっくりと歩いている。

お父さん、お腹いっぱいになったね」

「そうだな、今日は結構食べ過ぎちゃったかもだな」

「ぼく、この町は好きだな。ねえ、お父さん、しばらくここにいたいな」

「そうかい? そんなに気に入ったのか? 別にそうしてもいいが、次の町はも

っといいところかもしれないぞ」

「そうか。そうだね、お父さん。次の町へ行ってみて、それからまたここに戻って

来てもいいんだものね」

「いや、戻ってくるのはだめだ。それは私のルールに反する。私は前にしか進ま

ない、そういうルールで生きてきたんだ。な、お前にも何度もそう教えただろう?」

「う、うん……人生は前向きに生きるもんだって、そうでしょ?」

「その通りだ。まぁ、いつかまた同じ町にやってくることはあってもいいんだがな」

「そうだね。じゃぁ、次の町を目指そうよ、お父さん」

「うむ。じゃぁ、そろそろ帰ろうか」

「うん」

 父親は「帰る」と言ったが、それは言葉の綾であって、どこか帰る家がその

辺りにあるわけではない。ひっぱっている小さなリアカーを駐車して、眠るこ

とが出来る場所を探すということなのだ。親子は、自分たちをホームレスだと

は思っていない。彼らの家はどこにでもあるのだ。今日いる場所が、今夜眠る

場所が、彼らの家になるからだ。あるときは公園のベンチ、あるときは橋桁の

影、あるときは商店街アーケードの中。天気がよければ道端の植栽の中でも

いい。雨の日はシャワーだと思って衣服を脱いで体中をきれいに洗い流す。

 みんな固定した住まいというものを決めて喜んでいるが、なぜそんなものに

固執するのか、この父親にはわからない。彼の鴨長明も「人の世も住まいも

仮の宿だ」と書いているではないか。何をひとところにとどまり続ける必要が

あるのだ? 父親はそう考えている。かつて親子は北の町で暮らしていたが、

母親が急逝したのをきっかけに、すべてを手放して、全国を歩いて暮らす放

浪旅の生活をはじめたのだ。七歳になる息子は義務教育を受けられないが、

そんな堅苦しい教育を受けるより、日々学びの生活をさせたほうが、数倍役

に立つというものだ。

 ときどき、すれ違う人が目に憐れみを浮かべて振り返るが、何を勘違いし

ているのだろう。私たちはホームレスではない。浮浪者でもない。人生の放

浪者であり、住まいはこの地上すべてが私たちの住まいなのだ。これほど

幸せな生活が、この世にあるだろうか。豊饒の時代、必要なものはいつで

もどこかで手に入る。ゴミ集荷場に行けば、一発だ。食物だって、高いお金

を払わなくても、ホテルレストランの裏通りに行けば、新鮮で栄養たっぷ

りのディナーが放置されている。きれいなところだけをピックアップすれば、

親子は毎日ミシュランも驚くようあ食事を口に来ることが出来るのである。

 私たちは自由で豊かな放浪親子。地球が住まい。何の不満があろうもの

か。

                            了

 

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第五百十九話 永遠のお別れ [文学譚]

……ほんとうにすまない。結婚式を挙げたとたんに、こんなことになるなんて。

……いいのよ、仕方ないわ。私はあなたが帰ってくるまで待てるから。あなた

はしっかりそちらでのお仕事に集中してちょうだい。

……そうか、ほんとうにすまない。いくら仕事だからといって、上層部もひどい

ものだ。俺たちの結婚披露パーティではあんなに素敵な祝福の言葉をくれた

のに。

……って、その仕事はあなたの……だったじゃな…………ら、たは迷わずに、

仕事……らいいのよ。

……おい、なんだか、このテレビ電話、音声がおかしいな。そっちはちゃんと

聞こえているのかい?

……ううん。わた……えないよ。ほんと、なん……んね、この電話。

……もともと、画像より音声の方が遅れているからなぁ、まるでその……。

……そうね、最初から……んだかほら、あのお笑い腹話術の真似してるみたい。

……そうだね。あれだろ? あれ? 声が、後から、聞こえて、来るぞってやつ。

おや? いまは、音声が途切れなかったぞ。そっちはどうだい?

……ええ、私の方も、大丈夫。だけど、音声が遅れるのは、そのままみたい。

……これは、遠距離のせいで起きる現象なんだから、仕方ないな。

……あら、そうなの? じゃぁ、音声が途切れたのは、別の?

……そうだね。たぶん、磁気嵐か何かの影響だと思う。

……そう……で、どうなの? 仕事は順調なの?

……まぁ、今のところはね。国家機密に関わることだから、妻にさえ内容を話

すわけには行かないんだが、ただ、ひとつだけ言っておかねば。

……なぁに? どうしたの?

……あ、いや、君を心配させたくはないんだが、国家機密が関わっているだけ

に、敵国の臭い奴らが動き回っているようなんだ。敵の諜報部員だけならまだ

いいんだが、もっと危ない奴らも動いているという噂が飛んでてね。

……まぁ、恐い。あなた、大丈夫なの?気をつけてくださいね。私、あなたが怖

いことに巻き込まれでもしたらと思うと……

……すまん、君にまで心配かけちゃって。それで、君自身も、十分に気をつけ

て欲しいんだ。

……私が? どうしてなの?

……うん、過去の例に過ぎないんだが、やはり同じような機密処理を行ってい

た職員が、家族もろとも拉致されてしまったケースが、なかったとは言えないん

だ。

……そんな。じゃぁ、私が拉致される可能性も?

 ……そうなんだ。拉致されるだけなら、まだ救い出せばいいんだが、過去には

命を落とした家族も……いるんだ。

……嫌。そんなこと言わないで。怖いわ。

……いや、怖いからこそ、君にも十分気をつけて欲しいんだよ。そうでなくても、

君は亡くなったご両親から相続した遺産が多くて、泥棒からも狙われているの

だからな。 ……また、そんな。恐いことばかり言わないでちょうだい。

……そうだな。そんなことより、局の上層部に、君にもボディガードをつけるよう

に頼んでみるよ。

……うん……ら…も安心…………わ。是非……て……い。

……あ、また音声の調子が。

……んと……こ……しら。

……おい、何だ。君の後ろに、誰かがいるぞ!

………あに? よく……えな……よ。

……おい、ビクトリア! 逃げるんだ、早く!

……あなた、どう……の? 何をそんな……顔を……の?

……ビカ! ああ! ビカ! 

……キャァ! ……た! 苦し…………

……くそう! やつらだ! ビカが奴らにやられてしまった! ああ! 僕の

愛しいビカ! ビカ! 返事をしておくれ! ビクトリア! ……うお? なん

だ。お前らは! お前はビカを殺した連中の仲間なのか? おい! や、や

めろ! やめてくれ! お……グ……………………

 愛しあっている者たちは、まるですぐ近くにいるようにテレビ電話で会話を

することが出来る世の中だ。だが、いくら技術が進んでいても、どうしようも

ない出来事は有り得る。遠距離恋愛という言葉は美しいが、ほんとうは美

しい言葉よりも、現実に息をかわし、指でふれあい、気持ちを重ねることが

できる愛こそが、私たち自身を救う方法なのだ。愛し合う者たちよ、決して

距離をおいてはいけない。物理的な距離は、永遠の別れを呼んでしまうか

もしれないから。

                                              了


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第五百十八話 境界 [妖精譚]

 姉と僕の机の間には境界線が引かれてあった。小学生の頃の話だが、二席分

が横に繋がった長テーブル、それが僕らの学習机だったのだ。子供のすること

だと理解してもらえるとありがたいが、僕らは物差しでキッチリと測って、ち

ょうど真ん中のところに油性ペンで千を引いて、お互いに不可侵条約を結んで

いたのだ。

 机の上に重ねている本がはみ出したり、ちょいと肘でもはみ出そうものなら、

大騒ぎになり、誰が悪い、どっちが悪いと喧嘩に八天することさえあった。

「今度約束破ってはみ出たら、あんたはもう人間じゃなくなるわよ!」

 当時から気が強かった姉は、いつもそんなことを言って僕を脅かした。人間

じゃなくなるというのはつまり、人間以下ということだったのだろうが、その

当時、テレビでやっていた特撮ドラマか何かで、人を騙してばかりいる悪者が、

とうとう化け物に変身してしまうという話が姉弟にとって驚愕の物語として刷り

こまれていたために使われた比喩だ。それでも僕にとっては、あの怖い話を思い

起こさせ、行動を慎重にせざるを得なくなる脅し文句なのであった。

 あれから二十余年が過ぎたいま、そんなつまらないことで喧嘩をしていたこと

などすっかり忘れているのだが、たまに姉弟が出会うと、思い出話のひとつとし

て姉の口から語られることがあった。そして、僕はその話を聞いて笑いながら、

心の中では腑に落ちるものがあるのだ。

 実はそんな思い出話など忘れてしまっているのにもかかわらず、未だに僕は境

界線に弱いのだ。サッカーをするときの外枠の白線、試合中には絶対にはみ出た

ことがない。道に引かれた横断歩道の白線、駅のホームの白線、駐車場の区画を

分ける線、そうした日常的に存在する境界線が気になってしようがないし、また

それらの線をはみ出したことがない。そんなことをするととんでもないことが起

きてしまうような恐怖を覚えてしまうのだ。

 なぜそんなに几帳面な性格なんだろうと不思議に思っていたが、姉の話を聞い

て、そのルーツがわかったような気がした。なぁんだ、そんなつまらない姉弟喧

嘩のせいで、僕は小さな人物になっていたのだなぁと、妙に納得したのだ。

 ある日、駅のホームに立って電車待ちをしていた僕は、ふと、自分を小さくし

ている習慣にけじめをつけたいと思った。ホームの端に引かれているこの白線を

いつもなら決して踏み越えないのだが、これを踏み越えることによって、自分の

中の何かが大きく成長出来るような気がしたのだ。もちろん、そんな馬鹿げた気

持ちは、大の大人が持つものではないことくらいわかってはいるのだが、ほんの

いたずら心とでも言うのだろうか、あるいは験担ぎみたいな気持ちだったろうか、

白線越えを結構することにしたのだ。

 なぁに、ちょいと足の先を線の向こうに置いてみるだけだ。この期に及んで、

まだ何かにこだわって、自分に言い訳している僕。回りには誰もいない。僕は

一歩、二歩、前に前進して、白線の手前でいったん立ち止まる。ひと呼吸して

から、思い切ってもう一日前に。僕は思いの外大きく白線の外に歩を進めてし

まった。ホームの縁スレスレのところまで来てしまった。おおっと、それ以上

前に行くと、落ちてしまうところじゃないか。と思った瞬間、どういうわけだ

か、脚が攣った。攣ると同時にバランスを崩す。同じタイミングでいつの間に

か接近していた特急列車が通過するために入構する。風が巻き起こって、僕は

吸い込まれるように、白線の向こうで姿を変えてしまった。

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第五百十七話 麻酔 [日常譚]

 急に歯が痛み出した。虫歯というものはおかしなもので、昨日までは何とも

なかったのに、あるとき突然に痛みだすのはどういうわけか。口の中に残った

糖分とか酸性の物質とかが、少しずつエナメル質を溶かし、象牙質を溶かして、

歯の中に存在する神経を露出しはじめるのだと歯医者は言う。

「これは、少し削って、神経を取りましょう」

 医師はそう言って、注射器の準備をはじめた。

「少しチクッとしますからね」

 最近の注射針は、随分と細くなっていて、歯茎に突き刺してもさほどは感じ

ない。昔の針はもっと太くて、医師が無理矢理に歯茎に差し込むので、ギリギ

リギリっと音がして、その音だけでも痛みを感じたものだが、いまのはほんと

うにチクッとするだけで、その後はあまり痛みを感じない。それでも私は、針

が歯茎に刺さっているという事実を想像するだけで怖いのだ。

「いまから削りますので、痛かったら左手を上げてください」

 私は口を開けたままにしているので、喋れない。だから左手で合図をしなさ

いと言うわけなのだ。恐がりの私は、ちょっとぴくっと痛みがきただけで、左

手が勝手に上がる。それを見た医師は、わかりましたと言って、また注射針を

患部に突き刺すのだ。

 麻酔というものは不思議なものだなと思う。痛みを感じさせなくして、患部

を削ったりちぎったり掻き出したり。そんなことをされても、麻酔がきいてい

る間は、本人は平気だ。だが、もし、痛みを感じない体質なら? これはもう

麻酔なしでも平気なのだ。逆に言えば、痛みさえ感じなければ、痛い治療をさ

れても平気だ。痛みを感じているときは、それだけでもう、死んでしまうので

はないかとさえ思うのに、痛みさえ感じなければ、どんなにひどいことをされ

ても死んでしまうことはないのだ。

 実は私は痛風か神経痛か、なんだかわからない痛みが関節という関節にある。

だが、だからといって歩けないとか、死んでしまうようなことはない。ただ、

痛いのだ。ならば、この痛みさえ感じないようにすれば。

 私は歯医者から帰ってすぐにインターネットで検索して、治外法権な海外医療

ルートで麻酔薬を探し出した。こういう方法で、国内では認知されていない薬や

医師免許が必要な薬品を、素人でも入手出来る昨今だ。私が購入申し込みをした

注射器と麻酔薬一式は、一週間で到着した。

 私は早速包みを開けて、麻酔のセッティングを行った。身体の関節と言う関節、

痛いところに次々と麻酔薬を注射すると、ついさっきまできりきりと痛んでいた

節々から手品のように痛みが消えた。これからは、もう痛みに耐える必要はない。

麻酔セットを鞄に入れて持ち歩き、麻酔が切れる度に、それを関節に注射した。

 麻酔が効いているからといって、神経の中枢にまで麻痺がとどいているわけでは

ないので、歩けなくなったりはしない。表面的な痛みが消えるだけなのだ。私はこ

うして痛みから解放されることを知った。快適な一日を終える。だが、家に帰って

風呂に入るときに少し違和感を感じた。いやに簡単に衣服が脱げる。するりと脱ぎ

さったシャツの下から出てきた左肩。その先にあるはずの腕がない。

 そういえば、夕方帰り道で何かにぶつかった気がした。振り向くと、車が走り去

って行くところだった。私は痛くも何ともなかったので、そのまま帰宅したのだが、

あのとき、左手を車に持っていかれたのだ。しまった。私の左腕は、今頃あのあた

りに落ちているのだろうか。

 麻酔の力は恐ろしい。痛みがないから、自分の身体に起きているサインにすら気

がつかないのだ。明日は、もう片方の腕、あるいは脚も失ってしまうかも知れない。

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第五百十六話 お願いだから言わないで [怪奇譚]

 あれからもうひと月にもなる。あの日の朝、ぼくは校庭で目が覚めた。どう

しちゃったんだろう? ぼくは何故こんなところで眠っていたんだっけ。思い

出せない。たぶん、登校後、校庭で転んじゃって、頭を打ったのに違いない。

脳震盪でその前後の記憶が飛んでしまうっていう話は、聞いたことあるもの。

 教室に戻ると、数少ない友人の一人である智が心配そうにぼくを見て言っ

た。

「気分はどうだい? どんな感じ?」

 いや、どうもこうもない。何も覚えていないし、痛くもなんともない。ぼくは

確かそう答えた。他のクラスメートたちは、いつもと同じ。ぼくが何をしよう

が、何をされようが、見て見ぬ振りだ。ぼくを気にかけるのは、この教室で

は智くらいだ。それからあの日は普通に授業を受けて、午後には家に帰っ

た。父母には、心配かけたくなかったので、校庭で気絶していたことは伏せ

ておこうと思った。だが、そんな心配しなくとも、父母はそれからしばらく忙し

そうにしていて、ぼくのことなど気にも止めていないようだった。

 こうして何ということもなく一ヶ月が過ぎてしまったのだが、ちょっと気にな

ることがある。あれほどぼくのことを虐めまくっていたグループが、あの日

以来、掌を返したように何もしなくなったのだ。ぼくは何かしたんだっけ?

もしかして、奴らに抵抗して殴り返したとか? 覚えてないんだなぁ。

「なぁ、智、ぼく、ひと月ほど前に気絶したろ? あの前、何かしたの?」

 そう訊ねるが、智は、ほんとうに何も覚えていないのか、と逆に訊ねるばか

りで何も答えてくれない。

 虐めの中心にいたのは、山岡を中心とした六人か七人だ。ときどき参加する

人間が何人かいるので、はっきりした数字は分からない。中学に入った頃は、

後ろから小突いたり、「オンナ、オンナ」とか「腰抜け」とか、嫌な事をいうだけ

だったが、少しずつエスカレートして、ノートを隠されたり、弁当を落とされたり、

シャツを脱がされたり、その内に財布を出せと言われたり、どんどんひどくなっ

ていった。一年間、ぼくは耐え続けたが、二年になってもまた山岡と同じクラス

になってしまった。ぼくはついに耐えられなくなって先生に電話で相談したんだ

けれども、そうかそうかと言うばかりで、結局、なんの助けもなかった。二度三

度先生に相談してもなお、仲良くせえよとか、気にするなとか言うばかりで、何

もしてくれない教師にぼくは失望した。そうしたことがずーっと続いていたのに、

あの日を境に、虐めが消えたのだ。

「なんだか気持ち悪いんだけど」

「何がだい?」

「ほら、虐めさ。なくなってるんだ。どうしてだろう」

「どうしてって、そりゃぁ、もう飽きちゃったんじゃないかな」

「そうかなぁ、あんなに長く続いていたのに、飽きたりするものだろうか」

「うーん。ぼくはわからないけど」

 智は、相変わらず曖昧なことしか言ってくれない。智はぼくの友達だけど、

ぼくが虐めに遭っていても、遠巻きに見ているだけだった。だって、下手に

手出しをしたら、自分まで虐めの対象になってしまうかもしれないんだもの。

いや、ぼくがそう言ったのだ。智まで巻き込まれるから、ほうっておいてくれ

と。そして智はその通りにしただけだ。

 あの日からちょうど五十日目だった。いつも通りに学校に行くと、ぼくを見

た智が、少し驚いたような顔をした。

「智、どうした? ぼく、なんかおかしいかい?」

「い、いや。昨日、君んちの法事があったと聞いたんだけど。」

「法事? そうだっけ? ぼくは昨日ずーっと外にいたから知らないなぁ」

「そ、そうかい。あのさ、もう我慢できないから言うけどさ」

「何? なんだい、智?」

「あのさ、人って、死んでからでも四十九日まではこの世に魂がいるって、ば

ぁちゃんに聞いたんだけどね」

「なんだよ、藪から棒に」

「いや、君んちでも、その四十九日があったんだよ」

「うん、それはさっき聞いた。それで?」

「お前、ほんとうん知らないのか? あの日、お前はさ、山岡たちに屋上に

呼び出されて、危ないことをさせられて・・・・・・」

「そうだっけ? まぁ、そんなことはそれまでもいっぱいあったからなぁ。ほら、

屋上の柵の外に立たされたりさ、そういうの」

「そうだ。それでお前は・・・・・・」

「ああーやめてくれ! そんな話は聞きたくない! ぼくはいま、山岡がおと

なしくなった学校を気に入っているんだから!」

「だけど、そうなったのは、あの日、お前が柵を乗り越えて・・・・・・」

 お願い! お願いだから・・・・・・それ以上、言わないで! ぼくはそんな恐

ろしいこと覚えていないんだから。思い出したくもないんだから!智、お願い!

お願いだから・・・・・・言わないで・・・・・・

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第五百十五話 アクマガジン [怪奇譚]

 アクマガジンオンライン会員の皆様、こんにちは。

さて、最新の「生涯幸せプラン」は、もうご覧いただきましたか?

今回は、二十歳を過ぎたあなたのために、これからの人生をより豊かに幸福に

過ごしていただくためのライフプランをご紹介しています。

これまで、義務教育とか高校大学で、さまざまに学んで来られたことでしょうが、

そうした教育機関では、実際に社会の中で賢く豊かに生き延びいく方法論は、

教えられなかったことと思います。そこで、私たちアクマガジンスタッフは、実際

にいま、社会の荒波の中で数ヶ月間を過ごされ、その厳しさをお感じになってい

ると思われる皆様に、我々が無償で提供出来る処世術をお教えすべく、アクマ

本舗サイトに細部に渡ってご紹介しています。

 細かくは、本サイトをご覧いただきたいのですが、このメールマガジンでは、

タイトルだけ、ご紹介させていただきますね。

■幸せになるのは自分だけでいい。他人を敷石にしてのし上がる10のポイント

■妬み嫉みはあなたには必要ない。アクマ契約書で手にできる大きな幸せ体験記

■お金がすべてと思っているあなたに。お金よりも愛よりも重要なこと、お教えします 

■嫌なあいつを消滅させる。自分の手を汚さずに実行する三つの方法 

■ここまで出来るか? 試されるあなたのアクマ度チェックリスト

■さぁ、今こそアクマガジンからSoul-Saleにお申し込みを。バラ色の現世が待っています

 さて、いかがでしょう。どの項目も魅力的にお感じになったことと思います。

あなたも我がアクマガジンの定期購読者。ぜひ、本サイトをご覧の上、実践してみて

ください。必ず幸せな人生を歩む人に生まれ変わることと思いますよ。

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第五百十四話 わらしべ [可笑譚]

 ここに一本の藁がある。藁? なんだそれは? なぜ、そんなものを持って

いるのかというと、神様のお告げがあったからだ。

 俺は、ニートだ。病気で働けないというわけでもないが、働いても仕方ない、

働く気がしない。なんでしんどい目をして働かなきゃぁならんのだ? そう思う

からニートなのだ。まぁ、人によっては精神科へ行けなんてことを言う者もいな

いではないが、俺は別に病気じゃないし、ただ働きたくないだけだ。

 仕事を持ってやすい賃金で働いたところで、金は右から左へ消えていく。働

かなくても、役所に申請すれば、最低生活費を配給してくれる。そう、いま話題

の生活保護ってやつだ。確かに、俺がもらえる生活費なんて、ほんのわずかだ

が、それでも下手にしんどい目をして稼ぐことを思えば、文句は言えない。

 ところが、どうしたわけか、今月の配給金は、もうないのだ。調子に乗って飲み

食いしてしまい、気がついたら一銭も残っていない。俺は、三日間空腹に耐えた

が、四日目になって我慢しきれず、ついに神頼みをしてしまった。町外れにある

観音様の小さなお社を訪ねて「お腹が減りました。助けてください」そうお祈りを

した後、空腹のあまり気を失ったらしい。夢の中だったんだろうが、観音様が現

れて、「ここを出て最初に手にしたものを持ってお行きなさい」そう言ったのだ。

 俺は目を覚まして、ふらつく足取りで社を出たとたんに何かに躓いてひっくり

返った。そして起き上がった時に手にしていたのが、この藁だったのだ。何で

こんなところに藁が落ちているんだ! 俺は腹を立てた。観音様のお告げを

信じて、何かいいものを掴むんだろうと思っていたからだ。こんな藁みたいなも

の、持っていてなんになる? そう思ったが、気持ちを落ち着けてとりあえず持

って歩いた。しばらく行くと、虻が飛んできて俺の周りをうるさく羽ばたく。鬱陶し

いと思った俺はそいつを手で捕まえた。おう、この藁で縛ってやろう。そう思い、

藁の先に虻をくくり付けると、虻は逃げようとしてブンブン羽ばたく。だが、藁の

先は俺が持っている。

 更にしばらく行くと、乳母車の中で赤ん坊が泣いている。俺はどうしたんだろ

う? と思って乳母車の中を覗き込んだ。すると、藁の先にくくりつけられた虻

が俺の頭の上でブンブンいう。それを見た赤ん坊が泣き止んでキャッキャッと

笑い出した。ほう、これが面白いのか。俺は虻も藁も邪魔になってきていたの

で、虻をくくりつけた藁の先を赤ん坊に持たせてやった。少し離れたところでお

しゃべりをしていた母親が、何事かと様子を見に来た。赤ん坊は手に持った藁

の先でブンブン言っている虻を診て喜んでいたが、あろうことに、その藁をぐし

ゃりと手元に引き寄せて、虻をつかもうとした。そのとたん、虻は怒って赤ん坊

に噛み付いた。痛みに火が付いたように泣き出した赤ん坊。

「何してるのよ!」

 赤ん坊の母親が怒った。怒って手にした買い物籠の中から蜜柑を掴んで俺に

投げつけた。一つ目は外れ、二個目は俺の身体に、三個目は俺の顔にあたっ

て地面に落ちた。俺は、もったいないと思って三個の蜜柑を拾い、慌てて逃げ

た。走っていくと、道端に屈み込んでいる若い女がいた。冷や汗をかいて青い

顔をしている。ははぁ、熱射病だな。そう思った俺は、女を日陰に連れて行き、

持っていた蜜柑を剥いて口に入れてやった。しばらく苦しそうにしていた女は、

少し良くなったようだ。熱射病のときは、日陰で水分補給をするのが一番だ。

女はやがて目を開いて言った。

「何よ! あなたは誰? 私に何をしようというのよ!」

 俺は思った。なんだこいつは。せっかく人が助けてやったのに。俺は腹が立

って女が持っていた高級そうなバッグをひったくって逃げてやった。走っていく

と、バイクのチェーンが外れて困っているおっさんがいた。早く逃げたい俺は

そのバイクを奪ってやろうと思ったが、逆におっさんが俺に言った。このバイク

をやるから、その綺麗なバッグをくれ。カミさんが欲しがっているバッグと同じ

モノなんだと。俺は、まぁいいかと思い、男にバッグをくれてやった。

 俺はおっさんからもらったバイクのチェーンを直してシートにまたがったが、

エンジンがかからない。ガス欠だ。しまった、だまされたか。そう思ったが、

いや待て、ガソリンを入れたらいいのだ。だが、俺にはガソリンを買う金な

んてないぞ。そうか、このバイクをどこかで売ればいいんだ。そう考えて、

バイクを押し歩き、中古バイクを扱っている店を探した。ほどなく中古バイ

クを売っているオンダバイク店を発見した。

「おやっさん、このバイク、引き取って欲しいんっすけど」

「ほうほう。バイクか。どれどれ」

 バイク店の親父は、バイクを見るなり、眉毛が吊り上がった。な、なんだ?

親父は、俺の腕をグッと掴んで言った。

「わしの店から盗んだバイクを売りにくるとは、なんてえ奴だ!」

 親父はすぐさま警察を呼んで、俺は事情聴取を受けた。どうやら、あの男、

この店から盗んだバイクを俺に押し付けやがった。そうしているうちに、女が

一人店に入ってきた。

「ただいまー。お父さん、私いま、ひどい目にあったの。へんな奴にお気に入

りのバッグを盗まれた……」

 女はそこまで言って、俺に気がついた。

「あっ! こいつよ! こいつだわ!」

 俺は窃盗二犯で警察に逮捕されてしまった。なにがわらしべ長者だ。馬鹿

にしやがって。俺は観音様の言うとおりにしたおかげで、わらしべ犯罪者に

なってしまったではないか。いや、まてよ。昔話は昔話。いまの世の中で通

用するわけがない。だとすると、これでいいのかもな。刑務所に入れば、と

りあえず飯が食えるではないか。少なくとも、窃盗二犯だと、どのくらいだ?

よく知らないが、一週間や二週間は牢の中で生きていけるのではないかな?

 俺は喜んだ。とにかく、いまの世の中、飯を食うだけでも大変なのだ。そん

な大金持ちになりたいだなんて思わない。次の生活費が支給されるまで、餓

死しなければいいのだから。俺はそう考えて、胸をなでおろした。

 拘置所の中で知り合った他の犯罪者たちも、俺と似たような人間ばかりだ。

俺がこの話をすると、みんな一様にそうだそうだと同意した。そして俺のことを

奴らは「わらしべ犯罪セレブ」と呼ぶようになったとさ。

                                  了


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第五百十三話 ピロートーク [空想譚]

「これからも、お前を決して離しはしない」

 まどろみの枕元で囁きを聞く。眠りに入る前のぼんやりとした意識には、こ

ういうピロートークが心地よい。

「私もよ。あなたから絶対に離れないわ」

 相手に併せて愛を囁く私。

「いままでだって、一日もお前のことを考えない日はなかった」

「あら、そう? 嬉しいわ。でも、私の方がその何倍もあなたを思っているに

違いないわ」

「俺はすべてを失ってもいい。お前さえここにいてくれたら。それほど強い気

持ちなんだよ」

「本当かしら。でも、嘘でもいいわ。そんな素敵な言葉は、あなたしか言って

くれないから。たとえ偽りだったとしても」

「愛してるぜ、お前のことを、心から」

「私も……愛してる」

 それから私は静かに眠りの世界に入っていく。これが、この世でいちばん幸

せなひとときだ。翌晩も、そのまた翌晩も。ベッドの中だけで繰り返される至上

の喜び。毎晩私は、とろけそうな夜を手にしているのだ。

「これからも、お前を決して離しはしない」

 枕元の声は、今夜もそう囁く。

「これからも、お前を決して離しはしない」

 それは、さっきもう聞いた。

「これからも、お前を決して決して決してけっしけっしけっしけっけっけ……」

 私は枕を叩きつける。最近、時々こうなるのだ。これではピロートークも台

無しじゃないか。いったいどうなってるのだ。いい加減にして欲しい。

「離し離しはなはなはなはな……」

 壊れたレコードプレーヤじゃあるまいし。やはり安物の恋だったのかしら。

「一日もお前のことを考えない、一日もお前のことを考えない」

 あら、そう? 結構よ。私のことなんて考えてくれなくっても。ふん!と怒り

の声を上げて私は枕を床に叩きつける。枕は床の上で奇妙に捻れた形に

なって、なお言い続ける。

「強い気持ち、強い、強い、強い……愛して愛し愛死愛死死死死死……」

 本物のピロートーク、どこかに落ちていないかしら……

                            了


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