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第八百九十六話 騒乱 [文学譚]

「市長、また暴動が起きています」部下からの報告に、治まりかけていた恐怖が麻戸市長の中で再び頭をもたげた。と、とにかくどんな手を使ってでも暴動を治めるんだ。そう一喝して麻戸は部屋に閉じこもった。なんてことだ。私が指示を出すたびに死者が増えていく。なんとかしなければと思っているのに、市民の馬鹿どもが騒ぎを起こすからこんなことになるんだ。

 最初は穏やかに市民の騒ぎを制圧させるつもりだった。それが思わぬ人数に膨れ上がって、恐れをなした警備部の若者が発砲してしまった。その弾は市民の一人に命中して死なせてしまったのだ。あれが引き金になって、市民たちは怒りの矛先を市政局に向けた。命を奪う人殺し市政を廃止せよ! 市長をやめさせろ! そんな暴力的なスローガンを掲げた市民団体が次々と名乗りを上げて活発な運動をはじめた。市政側はそれらを鎮圧するために武力を行使するよりほかにはなかった。すると市民側も武装しはじめて……

 そもそも政治になど興味はなかった。親父が前市長を司っていたとき、麻戸自身は歯科医師として働いていたのだ。父の後は兄が継ぐはずだった。なのにその兄が交通事故で亡くなってしまった。父に乞われて断りようもなく尻亞の市長職を継ぐことを決めてしまったのがそもそもの間違いだったのだろうか。あの頃は市内も安定していて、まさかこんな事態になろうとは夢にも思っていなかった。そもそも、国内で威力を持っている米市がいけないのだ。あの市長がわが市に隣接する衣楽市への介入を行って、布施院市長を弾劾したのが悪夢のはじまりだ。それまでは尻亞市だって平和な街だった。衣楽市で起きた市民運動に恐怖を感じたから、私はこの市を守るために市民統制をはじめたのだ。そうしてやはり予測通りに衣楽市の騒動はこの市にも飛び火して、市民運動がはじまり、最初は小さなデモ隊だったものが次第に膨れ上がって、気がつけば全市民を巻き込むほどの大きな市民運動に変わっていた。しかし私には父が作ってきたこの街を守る責任がある。いまの市長職を未来に向けて継続させる義務があるんだ。麻戸の頭の中ではめまぐるしく思いが駆け巡る。

 ほんとうは麻戸はまぎれもなく小心者だ。この職を追われたらもう生きてはいけないだろうと考えている。だから自分や家族を守るためには、この市長職を継続させなければならないし、そのためにはなんとしてでも市民を鎮圧させなければならないのだ。

「市長! 武装市民五十名を倒しました。しかし、こちら側はそれ以上……百名以上の死傷者を出してしまいました」

 聞きたくはない報告がやってくる。麻戸は仕方なく、より多くの武装兵士を投入するように指示を出す。そうしなければこの紛争は治まらないからだ。しかしいま、世界中から非難を浴びているのは麻戸らしい。なぜだかわからないが。支援してくれているのは、昔から付き合いのある路師亞市長だけだ。自分の市を、そして市長の椅子を守るために闘っている、それがなぜ非難を浴びなければならないのか、麻戸にはさっぱりわからないのだった。

「あなたが市長を辞して、市政を市民に委ねればいいのです」

 市政局の長老の一人がそう言ったことがある。しかしそんなことをすれば麻戸自身はどうなる? 終わりではないか。麻戸は震えあがってその長老を縛り上げて政治犯として投獄した。いまや市の牢獄にはそのような政治犯であふれている。死刑にでもするかと考えたこともあったが……。とにかく、いつまでもつづくこの騒乱に終止符を打ちたいと、いちばん強く思っているのはこの私以外の誰でもない。麻戸は震える手をデスクに押しつけて制止させながらそう考えるのだった。

                                         了


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