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第七百六十七話 使者 [文学譚]

  天井の蛍光灯が激しく瞬いている。冷たいコンクリート壁に四方を囲まれたこの地下室にいる三つの魂がお互いの距離を計り合う。んんー。不意に息苦しくなっ て無意識に呻き声が出る。ふたりの男が代わる代わる私の顔を覗き込んでは知らない言葉を投げかけてくる。なにを言っているのだろう。呪文のように繰り返し ながら、私の額にロザリオを押し付けてくる。痛い。痛いじゃない! 思わず言葉がこぼれる。やめてよ。私はなにもしない。なにもしていない。どうして?  ほどいて。どうして私をいじめるの? 私の両手首はベッドに縛り付けられている。足も自由が利かない。きっと足も縛り付けられているのだ。拷問? 嫌な言 葉が頭をよぎる。
  黒い衣服をまとった二人の男たち。一人が黒い鞄の中から透明の液体が入った小瓶を取り出す。小さなガラスの蓋を外して、 いきなり私の顔めがけて浴びせてくる。な、なにをするの? 一瞬、希塩酸でも浴びせられたのかと思って顔を背けたが、顔中に飛び散った液体は、皮膚を溶か すこともなく、ただ水滴となって滴り落ちていく。水だ。ただの水。なんのつもりなのか。
 もう、やめて。誰がこんなことを? そう言おうとした口は恐怖のためにカラカラに乾いていて、とぎれとぎれな言葉に変わる。
「もう……や……だれ……こ……を!」
 MOYADAKOW? That's your name?
 男が繰り返す。違う。私はそんな名前じゃない。
 I know your name, MOYADAKOW!
 もう一人の男も繰り返す。やめて! そんなおかしな名前。私は……
「ご、後藤エルザ……」
 What? She said "Go to hell!"
 な、なにを言ってるの? 私、そんなこと言っていない。また何かを言ってる。さっきから英語まじりになっているから何となくわかる。立ち去れ。この身体から立ち去るがいい。神の名において立ち去るのだ。そんなことを言ってるようだ。
「無理。出来ない」
  私は言うが、伝わらない。黒服の男たちは恐ろしい形相になってさらに同じことを繰り返す。これは……悪魔払いなの? 私に悪魔が取り憑いていると? 馬鹿 な。そんなわけがない。悪魔だって? どうしてそんなことを。そんな儀式で私をこの身体から追い払うなんて不可能だ。出来るわけがない。どうして人間は、 すぐに宗教に走ってしまうのだろう。この世には悪魔など存在しないのに。神が存在しないのとおなじように。私は悪魔じゃない。私はむしろ、神だ。人間が 神と呼んでいる存在……空の彼方から派遣されてきた使者なのだから。
                              了
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