第三百八十四話 りょくないしょう。 [お茶の間小説家]
「山田さん、いつからですか?」
「はぁ?」
「いつから緑内障って言われてたんですか?」
「はぁ?緑内障?ええ、ああ、はぁ、それはなぁ、こないだからじゃ。」
「どこかの目医者さんですか?」
「えっ?はぁ、はい、そうじゃ。家の近くの目医者がのう、緑内障違うかいうて、検査を
してなぁ、まだその結果は出とらんのよ。じゃけど、こっちのお医者さんの方が評判じ
ゃちゅうてな、みんなが言うから来てみたんじゃがな。」
「ああ、そうですか、ありがとうございます。で、白内障は?」
診察室に入る前に、看護師が予診をするのだが、相手のおばあちゃんは少し耳が
遠いと見えて、コミュニケーションにも苦労をしている。
「はぁ?白内障だすか?それは言われとらんがな、白内障にならん薬をもろとるで。
「ああ、ピノレキシンですね。で、今日は眼鏡は?」
「ああ、忘れた。」
「いつも使ってるのは老眼鏡ですか?」
「はぁ?あ、いや普通のん。」
「歩いたり御出かけする時の眼鏡は?」
「眼鏡は使うとらんでな。あのな、本を読んだりするときにな、眼鏡する。」
「はぁ、老眼鏡ね・・・。」
「はぁい、ではおばぁちゃん、この眼鏡をかけてぇ・・・あそこのあの文字が見えま
すか?」
「はぁ。あれ、何じゃな?マルじゃな。」
「はい、これはどっちがあいてますか?」
「マルじゃな。」
「ではぁ、これは?」
「マル。。。」
「うーん、じゃ、これは?」
「マル」
「あの、おばぁちゃん、マルどこかあいてるとこは見えない?」
「あいてるとこ・・・?はぁ、こっち側!こっち!」
「これは?」
「こっちのあっち!」
「わかりました・・・右目、と。」
「じゃぁ、近くの見え方を調べますね。この本を手に持って。ここ、読めますか?」
「・・・あのぉ、おねえちゃん、これ、なんていう字?」
「これは、あ、ですね。」
「・・・あ・・・。これは?」
「これは、し、です。」
「・・・あ、し・・・これは?」
「・・・た。」
「・・・あ、し、た・・・これは?」
「おばぁちゃん・・・文字読めないの?」
「何を言う!わしもちゃんと学校で習ろうたがな、字くらい。」
「あ、ああ、そうでしょうね、ちょっと忘れただけですよね?」
「視野の検査はした?」
「・・・しや・・・?・・・しやせん・・・いろいろ検査はしたなぁ。」
「で、いろいろ検査して、そちらの先生は何と?」
「・・・いろいろ検査されてな・・・そんでセンセは言いはった。これでは緑内障・・・って。
そんで検査は終わったんじゃがな。」
「で、来週結果が出ると?」
「んにゃ。来週来いと。」
「・・・おばぁちゃん・・・その先生な・・・おばあちゃんが、耳も聞こえへん、字も読めへ
ん、視野検査してもはっきり返事ができない・・・って困ってたんじゃぁないかしら?」
「うーん、そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。どうじゃろ?」
結局、山田さんははっきりしないまま帰って行った。
翌日。
「もしもし?其方眼科さん?ああ・・・実はね、山田さんっていうお年寄りの患者さんが
当院にもいらっしゃって・・・其方眼科で緑内障の診断を受けたというのですが・・・。
え?そんな診断はしていない?おばぁちゃん、耳も聞こえにくいし、字も読めないし、
視野検査してもはっきり返事が出来ないから・・・?それじゃぁ良くないでしょ?って
言った?…本当ですか?”りょくないしょう”じゃなくって、”よくないっしょ?”っておっ
しゃったんですね?!」
確かに、こんな患者さんは診断するにも難しいのである。
了







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